LOGIN「蓮司〈れんじ〉さん、花恋〈かれん〉さん。お互いに言いたいこと、全部言えたでしょうか」
そう言って笑顔を向ける恋〈レン〉に、蓮司も花恋も苦笑した。
「そうね。細かいことを言えばキリがないけど、それなりにはすっきりしたかな」
「強いて言えば」
「蓮司、まだ何かあるの?」
「あ、ごめん……そうだね、折角まとまりかけてたんだ。今のはなしで」
「ちょっとちょっとー、そんな風に言われたら気になるじゃない。いいわよ別に、今更どんな話が出ても驚かないから。遠慮せずに言いなさいよ」
「いや、でも」
「いーいーかーらー、言いなさいってば」
「痛い痛い、分かった、分かったからつねらないで」
「よし、ではどうぞ」
「花恋が、その……これ見よがしにゲップしたり、お尻を掻いたりするの……ちょっと控えてくれたら嬉しいなって」
「なっ……!」
花恋が顔を真っ赤にしてうなった。
「いや、別にいいんだよ。それくらいリラックスしてくれてるってことなんだから。ただほんと、ちょっと、ちょっとでいいんだ。僕にとって花恋は、何より大切な女の子なんだし」
「……」
花恋が両手で顔を覆う。そしてしばらくすると、恥ずかしさのあまり声を上げて身をよじらせた。
「あ、あはははっ……あのですね、蓮司さん。そのことなんですけど、実は理由〈わけ〉がありまして」
恋がそう言って、蓮司に説明する。
「……なるほど、そういうことだったんだ。大丈夫だよ花恋。僕は女性、と言うか花恋のこと、人形だなんて思ってないから。そんなに恥ずかしそうにして、ははっ。無理してたんだね、ごめん」
「ううっ……しばらく蓮司の顔、ちゃんと見れないよ……」
「でもまあ確かに、お互い
「蓮司〈れんじ〉さん、花恋〈かれん〉さん。お互いに言いたいこと、全部言えたでしょうか」 そう言って笑顔を向ける恋〈レン〉に、蓮司も花恋も苦笑した。「そうね。細かいことを言えばキリがないけど、それなりにはすっきりしたかな」「強いて言えば」「蓮司、まだ何かあるの?」「あ、ごめん……そうだね、折角まとまりかけてたんだ。今のはなしで」「ちょっとちょっとー、そんな風に言われたら気になるじゃない。いいわよ別に、今更どんな話が出ても驚かないから。遠慮せずに言いなさいよ」「いや、でも」「いーいーかーらー、言いなさいってば」「痛い痛い、分かった、分かったからつねらないで」「よし、ではどうぞ」「花恋が、その……これ見よがしにゲップしたり、お尻を掻いたりするの……ちょっと控えてくれたら嬉しいなって」「なっ……!」 花恋が顔を真っ赤にしてうなった。「いや、別にいいんだよ。それくらいリラックスしてくれてるってことなんだから。ただほんと、ちょっと、ちょっとでいいんだ。僕にとって花恋は、何より大切な女の子なんだし」「……」 花恋が両手で顔を覆う。そしてしばらくすると、恥ずかしさのあまり声を上げて身をよじらせた。「あ、あはははっ……あのですね、蓮司さん。そのことなんですけど、実は理由〈わけ〉がありまして」 恋がそう言って、蓮司に説明する。「……なるほど、そういうことだったんだ。大丈夫だよ花恋。僕は女性、と言うか花恋のこと、人形だなんて思ってないから。そんなに恥ずかしそうにして、ははっ。無理してたんだね、ごめん」「ううっ……しばらく蓮司の顔、ちゃんと見れないよ……」「でもまあ確かに、お互い
うなだれる恋〈レン〉と花恋〈かれん〉。そんな二人に苦笑し、蓮司〈れんじ〉は頭を掻いた。「僕の決断、花恋にとっては受け入れがたいものだったと思う。でも僕は、夢から逃げる口実に君を使った訳じゃない。そういう風に感じさせてしまったのは想定外だけど、でも僕にとって、花恋の幸せ以上に大切なものなんてなかったんだ。それは信じてほしい」「……うん、信じる」「ありがとう。それと、僕もやっとすっきりしたよ。あの時の花恋、とにかく不機嫌オーラ全開だったから。何をそんなに怒ってるんだろうって、ずっと気になってたんだ」「何であなたってば、そんな……」「ごめんね。長い時間、こんなことで苦しませてしまって」 蓮司の言葉に、花恋は更に肩を震わせた。「それとさっき言った、花恋の期待が重かったという話。出来れば気にしないでほしい。僕にとってそのこと自体、決して嫌なことではなかったから。正直にってことだから話したけど、花恋にそこまで好きになってもらえる物語を書けて、僕は嬉しいんだ」「……ありがとう」「蓮〈れん〉くんもごめんね。本当ならこんな話、まだ恋ちゃんに聞かれたくなかっただろう」「いえ……僕も少しだけ、気持ちが楽になった気がします」「恋ちゃんはどうかな」「私は……蓮くんの物語が好きで、ただそれを応援したかっただけなんです」「だよね。君は本当に僕たちの物語、大切に思ってくれてた。僕たちにとって唯一の、最高の読者だったんだから」「でも、それが負担になっていたんだったら」「読者の期待は作者にとって、励みにもなれば重荷にもなる。そういう意味では、受け止めきれない僕たちにこそ問題があるのかもしれない」「そんなこと……私はただ、夢を語ってる時の蓮くんが好きで」「ありがとう。それでね、恋ちゃん、それに花恋。君たちの質問には答えたけど、この話には
「蓮司〈れんじ〉さん。あと一つ聞きたいことがあるんですけど、いいでしょうか」「改まって言われると、ちょっと構えてしまうね。それに恋〈レン〉ちゃん、ちょっとだけ顔が怖いよ」「執筆をやめた理由、もう一度聞かせてください」 恋の言葉に、花恋〈かれん〉も真顔になって蓮司を見る。「蓮司、それは私も聞きたかった。あの時あなたは言った。私との未来の為に夢を諦めるって」「そうだね、そう言った」 穏やかに笑みを浮かべ、蓮〈れん〉に視線を向ける。「でも……この話は蓮くん、言っても構わないのかな」 その言葉に、蓮の肩がピクリと動いた。「蓮司さん、それってどういう」「僕たちも昨日ね、色々語り合ったんだ。そして当然、この話題にもなった。 今恋ちゃんが尋ねたこと。それはね、蓮くんの今後の活動にも影響するかもしれないんだ」「そうなの? 私が言ってること、また蓮くんを巻き込んだ暴走なの?」「蓮くんが拒むなら、僕の口から言うことは出来ない。これはね、恋ちゃん。彼の大切な夢なんだ。彼が望まないなら、その日まで待った方がいいと思う」「蓮くん……」「いいですよ、蓮司さん」「本当にいいのかい?」「はい……確かに作家になるのが僕の夢です。断念する未来が来ると分かっていても、今の僕にはまだ諦められません。 ただ、未来の自分に会うなんて奇跡が起こって……きっとこれは僕にとっても、意味のあることなんだと思います。だから今ここで、恋にも知ってもらおうと思います。そうすることで、僕も新しい一歩を踏み出せるような、そんな気がするんです」「分かった。じゃあ答えるね」 蓮司が静かにうなずいた。「花恋との未来の為、夢を諦める。そう言ったのは本心だよ」「どうしてそんなことを」「言葉のままだよ。さっきも言った通り、僕には花恋を幸せにす
「ある時、花恋〈かれん〉に対する感謝の気持ちに、違う感情が混じってることに気付いた。花恋のことを考えるとドキドキする。手を握りたい、唇に指で触れたい。髪に顔を埋めたい、抱き締めたい……そんな気持ちが大きくなっていたんだ」 淡々と語る蓮司〈れんじ〉の言葉に、花恋と恋〈レン〉が顔を真っ赤にした。「そして思った。僕は花恋のことを、一人の女性として意識してるんだって。そうだよね、蓮〈れん〉くん」 そう蓮に投げかけると、蓮も恥ずかしそうにうつむき、小さくうなずいた。「自分の人生全てを捧げても返しきれない、それくらい花恋に恩を感じてる。それなのに僕は、そんな恩人に邪な気持ちを抱いていた。いかがわしい欲望を抱いていたんだ。それは許されることじゃない」「もういい、分かったから……ちょっと待って」 耳まで赤くした花恋が、そう言って蓮司の言葉を遮った。「いくら正直にって言っても、生々しすぎるわよ。何でもう、あなたって人は……いつも無口な癖に、話し出したら止まらないんだから」「ごめんよ。でも、これが本心なんだ」「それにしてもよ。そこまで恥ずかしい告白なんて、別にしなくていいの」「これでもかなり抑えてるんだけど」「それでも駄目。目の前には思春期の子供もいるんだからね」「……そうだった。ははっ、二人共ごめんね」 穏やかに笑った蓮司に、落ち着かない様子で恋がうなずく。「僕は花恋のことが好きだった。でもそれは、花恋にとっては迷惑な話だ。花恋にだって選ぶ権利があるし、何よりこんないい子なんだ、世の男共だって放っておかない筈だ、そう思ってた。 なのに花恋は幼馴染という理由だけで、僕から離れずにいてくれた。その鎖を断ち切ってあげたくて、僕は自分の気持ちを花恋に伝えた。 それなのに、何がどうなってか分からないけど、僕の告白は受け入れてもらえた。僕より遥かにスペックの高い大橋くんを振って、花恋は僕のことを好きだと言って
「でも……やっぱりちゃんと言って欲しかったな」 涙を拭いながら花恋〈かれん〉がつぶやく。「蓮司〈れんじ〉がずっと、過去の傷に苦しんでいた。自分のことを、その……穢〈けが〉らわしいって……そんな哀しいことを思いながら生きてきた。 でもね、蓮司。あなたにとって、私って何だったのかな。私はあなたの彼女だったのよ? 辛い気持ち、苦しい気持ち。そういうことを打ち明けてこその恋人じゃないの?」「それ、花恋さんにも言えることじゃないんですか」「恋〈レン〉ちゃん?」「私、昨日花恋さんと話しててずっと思ってました。今の話……辛すぎて心がちぎれそうになりました。そんな気持ちを背負って生きてきた蓮〈れん〉くん、蓮司さんは本当に辛かったと思います。 でも花恋さん、蓮くんなんですよ? 蓮司さんなんですよ? いつも物思いにふけっていて、物語のことばかり考えていて。デートしてる時だって、話をするのは私ばかり。蓮くんはただ、私の話を笑顔で聞いてくれるだけ。そんな蓮くんにそこまで求めるのは、少し違う気がするんです。 だけど花恋さん、あなたは違う。あなたは赤澤花恋、私なんです。思ってることを口にしないと死んでしまう、そのせいでいつもトラブルを起こして、蓮くんに後始末をしてもらう迷惑娘。それが私なんです。 なのに花恋さん、私に触れてほしい、寂しいって、どうして言わなかったんですか」「それは……」「『あなたのことが好きです』こう言うのって、本当に恥ずかしいです。でもその言葉を口にすることで、相手に喜んでもらえる。だから私も、恥ずかしくても蓮くんに言ってました。 でも不満や不信感となると、伝えることで今の関係を壊してしまうかもしれない。そんな恐れがあったから、言えなかったんじゃないですか」「……そうね、それはあると思う。でもね、恋ちゃん。それは間違ってるのかな。おかしいのかな。 私はただ、蓮司との関係を守りたかっ
「穢〈けが〉れてるって……蓮司〈れんじ〉、あなた何を言ってるの」「蓮〈れん〉くん、蓮くんも同じなの? ねえ蓮くん、答えてよ」 自身のことを穢〈けが〉れていると言った蓮司の言葉に、恋〈レン〉も花恋〈かれん〉も動揺した。「僕はね、花恋。今でもずっと、自分のことをそう思ってるんだ」「蓮司あなた……そんな風に思ってたの? そんな風に自分を否定しながら、今まで生きてきたって言うの?」「そうなるね。蓮くん、君もそうなんだよね」「……はい」 言葉と同時に膝から崩れ、蓮が地面に座り込んだ。 頬に涙が伝う。何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」そうつぶやく。 そんな蓮の元に駆け寄り、恋が肩を抱く。すると蓮の感情は更に高まり、涙が嗚咽と共にこぼれ落ちていった。「どういうことなのか、分かるように言って。自分のことを、なんでそんな」「花恋も覚えてるだろ? 僕が中学時代、いじめられていたことを」「……勿論よ。忘れられる訳がないじゃない」「あの三年間は、本当にきつかった。今すぐこの世から消えてしまいたい、そんなことをいつも思ってた」「クラスが別だったし、蓮司も話してくれなかったから、詳しくは分かってないと思う。でも友達から聞かされてたし、酷い目にあってることは分かってた」「酷いなんてものじゃなかった。まあ教師の言葉を借りるなら、いじめられる僕にも原因があるらしいけどね」「何よそれ。そんな馬鹿なこと言った教師がいたの? その時に聞いてたら私、絶対職員室に怒鳴り込んでたわ」「花恋ならそうしてただろうね。でもね、いじめを受けてます、こんな酷いことをされてます。そんなことを話すなんて情けないって思ってた。そしてそれ以上に僕は、花恋を巻き込みたくなかった。優等生の花恋が職員室に怒鳴り込んでいく、そんな光景は見たくなかったんだ」「いじめられてる側に原因があるなんて、それは加害者側の屁理屈じ







